強制執行・差し押さえ

★この記事の簡易まとめ
  • 強制執行(差し押さえ)の概論まとめ。民事執行法に定められた法的措置で、たとえば債務者が支払いを命じる判決に従わない場合など、国家の権力でもって裁判の結果を実現させる。
  • 強制執行を行うためには、まず強制執行を許可する公の文書「債務名義」が必要となる。判決のほか、支払督促+仮執行宣言、和解調書、調停調書などが債務名義にあたる。
  • 任意整理、個人再生、特定調停といった債務整理を行った場合も、合意された返済計画が履行されない場合など、差し押さえ強制執行に至るケースも考えられる。
  • 上記の理由もあるため、「実現可能で、無理のない形」に返済を減額・免除・再分割することが、債務整理の大きなポイントとなる。

このカテゴリでは、「強制執行(差し押さえ)」についての情報をまとめていきます。
まずこの記事では、強制執行とは何か、その定義や社会的な意義といった概論をまとめていきます。
また、債務整理で差押えを防げる理由と条件についても解説していきます。

 

強制執行とは

強制執行とは、広義には“国家による強制力をもって、司法の判断(裁判の判決など)を実現すること”をいいます。

たとえば、借金を払わない相手に対して訴訟を起こし、債務者である被告に対して「支払いを命じる」判決が下ったとします。しかし、債務者がその判決に従わず、弁済を行わない場合もあります。そうした時に、国家の権力によって裁判の結果を実現するべく、強制執行が行われます。

また、強制執行は差し押さえだけではなく、借金の返済などに限った話ではありません。たとえば、「自分の土地を勝手に占有されており、立ち退きを命じられても退去しない」といった場合に、強制的に排除する“強制執行”もあります。また、金銭の支払いを求めるのとは逆に、「金銭を払ったが商品の引き渡しがされない」といった場合に、その財物の引き渡しを強制する“強制執行”などもあります。

しかしながら、ここでは“金銭債権”の場合に限り、“支払いや弁済が行われないため、強制執行をもって差し押さえをする”というケースを主に取り扱います。

 

差し押さえ強制執行に対する秩序の要請ー民事執行法と債務名義

強制執行は、“国家権力の行使”とも言える措置です。したがって、法治国家の要請として、強制執行による債権回収にも秩序が求められます。
いくら裁判に勝ったからといって、債権者が債務者の家に土足で踏み込み、手当たり次第に財物を回収してしまうのでは、秩序ある法治国家の社会の在り方とは言えません。正当な債権回収であっても、法の秩序のもとに行われる必要があります。そのために、強制執行は、その手続きが民事執行法に定められ、社会秩序が担保されています。

 

強制執行と債務名義

社会秩序を保った上での、手続きの在り方の一つとして、強制執行(差し押さえ)には「債務名義」が必要とされています。

債務名義とは、「強制執行を許可された」ことを示す公の文書です。これが無ければ、強制執行に移ることは、原則としてできません。

債務名義になるものには、次のような文書があります。

  • 確定済の判決
  • 仮執行宣言付きの判決(確定していないが、いったん執行してよいとされたもの)
  • 支払督促+仮執行宣言
  • 執行証書(金銭支払いを求める場合のみ強制執行可能)
  • 仲裁判断+執行決定
  • 和解調書(○○円払う、などの金銭支払いを認める内容について強制執行可能)
  • 請求の認諾についての認諾調書
  • 調停調書(○○円払う、などの金銭支払いを認める内容について強制執行可能)

 

仮執行・仮処分(民事保全)と民事保全法

強制執行には債務名義が必要となります。ですが、たとえば判決などの債務名義が確定する前に、債務者が財産を使ってしまう、処分してしまう、また意図的に損壊したり、どこかに隠してしまう…といったリスクもあります。

こうしたリスクを予防するために、「民事保全(仮差押え・仮処分)」という制度があります。これについては、民事保全法という、先ほどの民事執行法とは異なる法律によって定められています。
しかしながら、民事保全(仮差押え・仮処分)もある種の強制執行とも言えるため、これも含めて広義の強制執行と捉える見解もあります。

仮処分・仮差押が行われると、たとえば「裁判になる前に、裁判所に車を取り上げられてしまう」「裁判所に家と土地の所有権を抑えられてしまう」といったことが、比較的早い段階で行われる事になります。

 

債務整理で強制執行・差し押さえを防げる?その理由と条件

当サイトでは、いくつかの記事において、「強制執行を回避するためにも、債務整理が必要」といった記述を行っています。ですが、これは理解しやすさを重視した表現であり、厳密には異なる場合もあります。そうした債務整理と強制執行について、一歩深い部分での解説を行います。

まず、「債務整理をすれば、その債務に関しては、絶対に強制執行・差し押えを受けない」という事ではありません。債務整理によって決定された再生計画(返済計画)が履行されなかった場合など、債務整理後に強制執行を受ける例もあり得るでしょう。債務整理の結果を示す和解調書や調停調書などの文書も、債務名義として機能するため、その履行がなされなければ強制執行に至ると考えられるためです。

逆説的に言えば、「だからこそ債務整理は、“無理のない形”で成立させることが必要」になります。

「任意整理」の場合

将来利息や遅延損害金はカットされ、また弁済計画も再設定(リスケジューリング)されるが、元金の減額自体はほとんど期待できません。したがって、弁済計画をいかに無理のない形にするかが、一つの大きな焦点となるでしょう。

「個人再生」の場合

元金の減額基準については、総負債額の規模、清算価値保障原則などにより違いがありますが、
債務額が100万円以上500万円以下の場合は100万円
500万円超1500万円以下の場合は5分の1
1500万円超3000万円以下の場合は300万円
3000万円超5000万円以下の場合10分の1
といった減額が期待できます。
しかし、一部といえども返済は残るため、それを3年~5年程度の分割返済とするのが一般的です。
この“残った部分の分割返済”について、債務履行に無理がなく、債務者の経済能力に応じて実現可能な形で、再生計画の承認を得られることが望ましくなります。

「自己破産」の場合

破産財団が設置される場合、または同時廃止となる場合どちらについても、原則としては、手続き完了によって全ての債務が免除される事となります。いわば「債務が残らない」形となるため、自己破産後に強制執行・差し押さえが行われることは、考えにくいと言えそうです。ただし、自己破産後に隠していた財産が見つかった等、その限りではない場合もあり得るでしょう。

「特定調停」の場合

もっとも注意が必要な手続きとなります。特定調停は弁護士・司法書士を通さずに、債務者本人が行える債務整理手続きです。裁判所の調停員が間に入るものの、調停の内容が「自分にとって本当に無理なく履行できるか」は、債務者本人が判断する必要があります。しかしながら、債務者自身が正しい判断を下せるとは限らず、“滞納している”といった負い目から、無理な返済計画に同意してしまう恐れもあるでしょう。
また、遅延損害金のカットができない、元金の減額もほとんど期待できない等、返済の減額・免除についても恩恵が得られにくい側面もあります。
無理な返済計画に同意して、「○○円支払う」といった内容を含む調停調書が成立し、その履行が滞ってしまった場合、調停調書が債務名義となるため、“特定調停後に強制執行を受ける”といった結末は十分にあり得るものとなります。

債務整理で強制執行を防ぐためには、債務整理に強い弁護士・司法書士の手助けが不可欠

このように、債務整理という手続きそのものに、未来永劫の差押え・強制執行を防ぐ効力は無いと言えます。あくまで債務整理が、“無理のない形での弁済計画の立て直し”という目的を達成し、それが実現された場合においてのみ、結果として強制執行に至る恐れが低くなると考えられるに過ぎません。

したがって、ただ債務整理さえすれば良いのではなく、「本当に意義のある債務整理」である必要があります。そのためにも、債務整理について豊富な知見と経験を持った弁護士・司法書士に依頼し、その力を借りて達成する必要があるでしょう。

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