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この記事では、消滅時効の援用と債務整理の違いについて解説していきます。どちらも、借金などの返済を減らしたり、無くすことができる手続きです。
消費者金融や銀行カードローン
クレジットカード
住宅ローンや自動車ローン
奨学金の返還
家賃滞納、携帯電話料金の滞納
債権回収会社や保証会社からの督促・取り立て
こうした返済や支払に困っている時に、時効の援用と債務整理は、どちらも役に立つ制度です。しかし、特徴や条件、仕組みなどに大きな違いもあります。
そこで今回は、そうした時効援用と債務整理の違いについて、かんたんに比較していきたいと思います。
消滅時効の援用と債務整理の特徴
まずは、債務整理と時効援用のそれぞれの特徴を、おおまかに見てみましょう。
なお、どちらも実際にはかなり複雑な仕組みですので、ここでは最小限の解説となります。実際には例外や、より細かい決まりなどもあるので、予めご承知下さい。
債務整理
- 返済や支払いに困った人を助ける制度。
- 任意整理、個人再生、自己破産、特定調停といった種類がある。
- 返済の減額~手続きによっては全額免除も可能。
- ブラックリスト(個人信用情報機関に登録されることを言う)になるが、一定期間で解除される。
- 財産の清算が必要になるのは、「自己破産の管財事件」のみ。財産の処分や清算ナシで、返済を減額できる手続きもある。
- 条件は原則として、「返済や支払に困っている」or「近い将来、困ったことになりそう」な事情があること。
消滅時効の援用
- 「時効の起算点」から5年または10年が経ち、“消滅時効”に掛かった返済や支払を、“時効の援用をする”ことでゼロにする制度。
- 時効援用の手続きに成功すれば、返済義務が無くなり、その借金がゼロ円になる。
- ブラックリストにならない。また、滞納など別の原因でブラックリストになっている場合、即時解除の可能性も場合によってあり。
- 「時効の中断」(改正民法では、「時効の更新」)によって、時効期間のカウントがリセットされる場合もある。
- そのほか、相手(債権者)が対抗要件を備えていると、うまくいかない。
時効援用と債務整理を比較すると?
時効援用と債務整理は、どちらも一長一短があるので、単純な比較はできません。どちらのほうが優れている…といった答えもありません。
ただ、人それぞれの状況によって、時効援用のほうが良い場合もあれば、債務整理のほうが良い場合もあります。この判断はとてもシビアですので、「○○の場合は時効援用」「××の場合は債務整理」といった風に、白黒はっきり言い切れるものではありません。
これは、手続きの特徴やメリット・デメリットを比べるだけでは診断できません。人それぞれの債務状況のほか、債権者ごとの傾向の違い、さらには過去の事例や判例(最高裁判所平成25年4月16日第三小法廷判決[1])などもふまえて、法律の専門家に診断してもらう必要があります。
膨大な知識と、豊富な実務経験、解決実績、確かな法的知識が必要となります。
「債務整理と時効援用は、どちらのほうが自分にとって良い選択なのか」
「債務整理の場合、任意整理・個人再生・自己破産・特定調停のどれを選ぶべきか」
…こうした話は、借金解決に強い弁護士・司法書士に、無料相談で診断してもらいましょう。
債務整理と消滅時効の援用は、根本が大きく異なる
ここからは、もう少し踏み込んだ知識的な解説になります。
債務整理と時効の援用は、どちらも「借金などの解決・解消」という目的で使われる(ことの多い)手続きのため、一見すると違いがわかりにくくなっています。
現に、債務整理の4つの手続き(任意整理、個人再生、自己破産、特定調停)と時効援用とを、特に区別せず、並列的に扱っている資料もあるようです。
しかし厳密に言えば、債務整理と消滅時効は、制度設計の根本から大きく違う制度だと言えます。
消滅時効は「実体法」、債務整理は「実体法 + 手続法」
まず、消滅時効と債務整理は、定められている法律が異なります。
消滅時効 | 民法(第七章第三節)[2] |
債務整理 | 破産法、特定調停法、民事調停法、民事再生法など(※手続きの種類によって根拠法も異なります) |
この法律の違いは、単に「手続きについて定めた法律が違う」というだけの話ではありません。
法律にはいくつかの種類(分類)があります。今回の話で重要になるのは、「実体法」と「手続法」の違いです。
実体法は、“権利や義務のあり方を定めた規律”です。
一方、手続法は、“法律や制度の運用について定めた規律”と言えます。
そして、
消滅時効について定めた民法は、「実体法」
債務整理について定めた各種法律は、「実体法 + 手続法」(※伊東俊明 1984~1994 日本大百科全書)
…という性質の違いがあります。
債務整理は、実体法であると同時に、手続法の性質も併せ持った法律で定められています。つまり、債務整理の場合、借金減額・免除の具体的なプロセス等も、法律に定められているわけです。
一方の消滅時効について定めた民法(第七章第三節)は、実体法としての性質しか持ちません。“権利や義務のあり方”という、いわば社会の設計思想です。そのため、時効援用に関する法律は、解釈の幅が広く、まだまだ曖昧な部分もあります。
そのため時効援用は、相手から「こういう解釈もできる」といった反撃を受けやすい面もあります。
現に、時効援用を安易に自分で行った結果、債権者から、「弊社としては、時効は成立していないものと認識しております」と反論を受けてしまった事例もあります。こうした“認識の違い”で争いになることもあるわけです。
借金に追われて暮らせない…そんな人を助けるのが「債務整理」
実体法、すなわち「権利のあり方に関する定め」としての違いを考えると、債務整理と消滅時効には、制度の設計思想に大きな違いが見て取れます。
債務整理は、「債権者と債務者の利害関係の調整」、そして「支払困難な債務者の、経済生活の再生」という二つの面があります。この立法精神は、破産法第一条にも明確に示されています。
【破産法第一条 目的】
この法律は、支払不能又は債務超過にある債務者の財産等の清算に関する手続を定めること等により、債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し、もって債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図るとともに、債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的とする。
債権者の権利、つまり返済を受け取る権利は、当然、ないがしろにはできません。かといって債務者に対して、「死んでも借金を返せ」とか、「一生かかっても全額払え」と言うのでは、債務者の基本的人権が棄損されてしまう恐れもあります。
金融マンガなどでは、「カネは命より重い」等と言われることもありますが、現実の日本では、「借金返済よりも、健康で文化的な最低限の生活のほうが大切」といった価値観に基づいて、社会が作られています。
【日本国憲法第25条】
すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
債権者の権利と、債務者の権利、お互いの権利と義務のバランスを取ることが必要になります。
そのバランスを調整した結果として、借金が減額されたり、免除されることもある…これが、債務整理だと言えます。
「借金返済がつらくて、もう自殺しようか考えてしまう」
「借金返済のせいで、まともな生活が送れない」
「借金返済に追われて、働き詰めで病気になってしまう」
…こうした人も、憲法第25条に基づき、しっかりと国が助ける必要があります。そのために作られたのが、借金減額・免除の手続きである「債務整理」だと言っても良いでしょう。
『権利の上に眠る者は保護に値せず』…債権者の権利を消滅させるのが、「消滅時効」
債務整理は、「返済に困っている人を助けて、生活を守るため」という事が、破産法第一条、および日本国憲法第25条から理解できます。
では、同じように返済を無くせる時効援用は、一体なぜ、何のためなのか…というと、実はこれが債務整理とはまったく異なる理由なのです。
消滅時効について定めた法律は民法で、民法は実体法…つまり、権利や義務のあり方を定めたタイプの法律です。これは「理屈・理論」というより「思想」の面が強くなります。そのため、古くから続く哲学や格言が、根拠になっている事もあります。
そして消滅時効は、まさにこの「古くからの格言(法格言)が根拠」になった法律の、代表例とも言えるのです。
その法格言は、
“権利の上に眠るものは保護に値せず”
という言葉です。
これについて、参議院法制局の解説をご紹介します。
参議院法制局とは、参議院において、議員の立法活動を補佐する国家機関です。
【権利の上に眠るものは保護に値せず[起源不明]】
この法格言の考え方は、民法第166条以下の消滅時効制度(一定期間の経過により権利が消滅してしまう制度)などに具体化されています。
「権利の上に眠る」というのは、“権利を持っているのに、それをきちんと主張したり、使ったりしないこと”と、ここでは考えて良いでしょう。いくら権利を持っていても、それを正当に使わなければ、社会や法律は権利を守ってくれないわけです。
「使わなければ、無いのと同じ」ということで定められているのが、“民法第166条以下の消滅時効制度”です。借金の時効援用(=債務の消滅時効の援用)も、この消滅時効制度の一つです。
ここで消えてしまう権利とは、債権(=借金を貸した側が、返済を受け取る権利)です。
つまり、消滅時効は、私たち債務者(借りた側)の問題ではなく、債権者(貸した側)の問題なのです。
債権者が一定期間の間、「返済を受け取る権利を、きちんと使ってこなかった」場合、その債権者は、“権利の上に眠る者”と見なされます。そして、『権利の上に眠るものは保護に値せず』という事で、使ってこなかった権利=債権を、消滅させられます。
これが時効援用の、根本的な考え方です。
債務整理と消滅時効が、「まったく違う」と言える理由
債務整理は、「債権者と債務者の利害を調整しつつ、返済に困っている人を助けて、生活の立て直しをサポートする」制度
消滅時効は、「債権者が一定期間、債権を適正に行使しなかった場合に、その権利を消滅させる」制度
このように、消滅時効と債務整理とでは、根本の考え方や制度の目的、立法精神がまったく異なります。
債務整理は利害調整の面もありますから、「減額はしても、ある程度は返済しましょう」とか、「免除する代わりに、一定以上の財産は清算して、債権者に配当しなさい」といった事にもなります。
一方、消滅時効は「債権者が権利を行使しなかったのが原因」です。債務者の側には特に原因がありませんから、ブラックリストになったり、財産の処分が求められたり…というデメリットも無いわけです。
いかがでしょうか。
「時効援用と債務整理って何が違うの?どちらもお金が払えない・返せない悩みを解決するものじゃないの?」
…こうしたシンプルな疑問の答えが、まさかここまで深い話になるとは、思っていなかった人も多いのではないでしょうか。
債務整理も消滅時効も、基本的には、法律や社会の仕組みにもとづく、厳格な制度です。そのため、仕組みを理解しようとすると、話が複雑になってしまいます。
ですがもっとも重要なのは、「時効援用か、債務整理か」「どちらが良いのか」という事ではありません。
時効援用も債務整理も、私たちの持っている、正当な権利の行使だという事です。
夜逃げや踏み倒しのような、後ろめたい事・恥ずかしい事ではないのです。ですから、弁護士や司法書士に相談しても、怒られたり、責められることもありません。
まずは、「債務整理か時効援用か」といった難しいことは考えずに、借金解決に強い弁護士・司法書士の無料相談を、利用してみましょう。
脚注、参考資料
- [1]最高裁判所平成25年4月16日第三小法廷判決
- [2]民法第7章第3節
- 実体法と手続法の違いについて - みなと綜合法律事務所