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この記事では、自己破産の管財事件について、概要と手続きの流れを解説します。
自己破産は、債務整理(ローンや借金の減額・免除)の手続きの一種類です。原則として全ての借金を免除する「免責手続き」と、一定以上の財産を清算する「破産手続き」が一体となっています。
この自己破産には、大きく分けて「管財事件」と「同時廃止」の2つの形があります。この記事では、そのうち「管財事件」について解説していきます。
自己破産の管財事件とは
自己破産の管財事件とは、一言でいうと、“財産の清算(破産)がある自己破産”です。
…といっても、少しわかりにくいですよね。
これを理解するために、まず基本の“言葉の意味”から確認していくほうが良いでしょう。
そもそも自己破産とは?「お金がなくなること」ではない
「破産」、あるいは「自己破産」というと、どんなイメージがあるでしょうか?
「お金がなくなった人のこと」
「借金を返せなくなること」
…といった雰囲気で考えている人も多いかと思います。
しかし、破産は法律で定められた手続きですから、ふんわりしたイメージではなく、ちゃんとした言葉の意味があります。
【破産法 第二条(定義)】
第二条 この法律において「破産手続」とは、次章以下(第十二章を除く。)に定めるところにより、債務者の財産又は相続財産を清算する手続をいう。
「破産」とは、“債務者の財産または相続財産を清算する手続き”とされています。
かんたんに言い直せば、
「破産」=“今持っている財産を売って、お金に変えて、借金などの返済に充てること”
…だと考えて良いでしょう。
自己破産は“破産 + 免責”の二つの効果がある
さて、
「破産」=“今持っている財産を売って、お金に変えて、借金などの返済に充てること”
という解説をしましたが、これだけが自己破産の効果ではありません。
自己破産にはもう一つ、“原則として、すべての返済を免除する”という効果もあります。
この効果を、“免責”と言います。
【破産法 第二百五十三条(免責許可の決定の効力等)】
免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
そして自己破産というのは、「破産手続き」と「免責手続き」の2つが、一緒になっている手続きなのです。
【破産法 第二百四十八条第4項】
債務者が破産手続開始の申立てをした場合には、当該申立てと同時に免責許可の申立てをしたものとみなす。ただし、当該債務者が破産手続開始の申立ての際に反対の意思を表示しているときは、この限りでない。
自己破産 = 「破産手続き」+「免責手続き」
破産手続き = 財産を売ってお金に換えて、返済に充てること
免責手続き = 残った返済を免除すること
つまり、
「今、あなたの持っている財産を清算して返済に充ててください(破産)。そうしたら、残った返済はしなくて良いですよ(免責)」
というのが、自己破産という手続きのおおまかな内容です。
自己破産の管財事件=破産も免責もある自己破産
自己破産は、「破産手続き(=財産の清算)」と、「免責手続き(=返済の免除」という、二つの効果がある手続きです。
そして答えを言ってしまうと、これが自己破産の“管財事件”の正体でもあります。
といっても、少しまだわかりにくいかと思います。
なので、話をもう少し手前に戻していきましょう。
さて、
自己破産 = 「破産手続き」+「免責手続き」
破産手続き = 財産を売ってお金に換えて、返済に充てること
免責手続き = 残った返済を免除すること
…という事ですが、では「破産する(売ってお金に換える)ほどの財産が無い」場合、どうなるでしょうか?
無いものは、どうしたって無いわけですから、どうしようもありません。
そこで裁判所は、
「この人は破産できる財産が無いから、破産手続きはやらずに、免責手続きだけやります」
と決定を出します。これを、「同時廃止」と呼びます。
一方、清算できる財産を持っている人は、原則どおり、「破産」も「免責」も行います。これを、「管財事件」と呼びます。
自己破産の種類 | 破産手続き (財産の清算) |
免責手続き (返済免除) |
|
一定以上の財産がある人 | 管財事件 | あり | あり |
一定以上の財産がない人 | 同時廃止 | なし | あり |
※より詳しい比較は、次の記事で行っています。
さて、管財事件と同時廃止を並べて解説しましたが、「自己破産は管財事件が基本で、同時廃止が例外」と捉えたほうが良いでしょう。
基本的に、破産(財産の清算)も免責(返済免除)も行われるけれど、破産する財産が無い人の場合、しかたないので同時廃止となり、免責手続きだけが行われる…というわけです。
ここまでお読み頂いて、「なるほど、よくわかったよ!」という人は、ほとんどいないと思います。とても難しい制度ですし、私たちが日常会話で使う言葉とは、意味もいろいろ違っていますから、直感的に理解しにくいのです。
ですので、自己破産について検討したい場合は、自分一人で考えずに、かならず専門家にアドバイスをもらいましょう。
「自己破産はどんな仕組みなの?」ということも重要ですが、もっとも大切なのは、「私の場合は、どうなるの?」という答えです。
自己破産の管財事件は避けたい…同時廃止にする方法は?
さて、ここでもう一度、先ほどの表を見てみましょう。
自己破産の種類 | 破産手続き (財産の清算) |
免責手続き (返済免除) |
|
一定以上の財産がある人 | 管財事件 | あり | あり |
一定以上の財産がない人 | 同時廃止 | なし | あり |
こうしてみると、「一定以上の財産がない人」は、自己破産しても、「財産の清算がない(同時廃止)」ことがわかります。
こう見ると、
「なんとかして同時廃止にしたい」
「自分も同時廃止で自己破産したい」
「管財事件になるのは避けたい」
…と思う人もいそうですね。
同時廃止にする方法が、まったくないわけでもありません。
たとえば持ち家がある場合、自己破産の前に任意売却で手放して、住宅ローン残債も減らしておく…等の方法もあります。
ただし、あまり不適切なやり方をすると、後々おおきな問題になりかねません。
シビアな法律問題になってきますから、やはり法律の専門家である弁護士・司法書士のアドバイスを受けて、進めるべきでしょう。
なお、同時廃止になる場合の条件など、自己破産の「同時廃止」について、より詳しくは次の記事で解説を行っていきます。
管財事件になると財産処分!?ホームレスになってしまう?
自己破産の管財事件については、やはり一番気になるのが「破産=財産の清算」かと思います。
「自己破産は返済を全額免除できる」
「人生をやり直せる手続き」
…と、どれだけメリットを並べられても、やはり「財産の清算」という部分が、大きなデメリットに思えますよね。
ですが、
「やっぱり自己破産するとホームレスになってしまうんだ!」
「一生、極貧の底辺生活を強いられるに違いない…」
…と慌ててしまうのは、すこし“早とちり”。
実際には、すべての財産が何もかも没収されてしまうわけではありません。
自己破産の管財事件でも、持ち続けられる「自由財産」
結論から言えば、自己破産をしても、「生活や仕事に必要な財産は、持っていて良い」という事になっています。
債務整理に詳しい、松谷司法書士事務所の解説をご紹介します。
そして、「差し押さえ禁止財産」についても、手放す必要はありません。
差し押さえ禁止財産というのは、債務者の最低限の生活保障のため、民事執行法で、差し押さえが禁止されている一定の財産のことです(民事執行法131条、152条)。
民事執行法第131条、第152条で定められた「差押え禁止財産」。これは、“差し押さえされない財産”として定められていますが、実は自己破産の管財事件にも適用されます。(破産法第34条第3項第2号)
ほかにも、
- 99万円以下の現金(破産法第34条第3項第1号)
- 裁判所によって自由財産の拡張が認められた財産(同法第34条第3項第4号)
- 破産管財人によって破産財団から放棄された財産(破産法第78条第2項第12号)
…など、自己破産の管財事件になっても、守られる財産はいろいろあります。
ただ、「何が実際に守られるか」となると、一概にこれと言いきれない部分もあります。
裁判所によって基準が微妙に異なる
個々の事例によって判断される部分も大きい
といったことが理由です。
この「自己破産で手放さなくて良い財産」についても、とても難しい話になりますので、詳しくは別の記事で扱っていきます。
破産後に手に入れた財産=新得財産は持ち続けられる
もう一つのポイントとして、「新得財産」にも触れておきましょう。
破産手続開始決定後に手に入れた財産は、「新得財産」と呼ばれます。この新得財産は、破産した後も自由に持っていてよい事になっています。
たとえば、破産手続開始決定が出た後に、急に大企業への就職が決まり、多額のお給料を受け取れることになった…としましょう。このお給料は「新得財産」となるので、自由に持っていて良いことになります。
自己破産が「人生のやり直しができる」と言われる、大きな理由の一つです。
自己破産したら人生オシマイ…昔の破産法のイメージ?
ちなみに、昔の破産法では、新得財産も破産財団に組み入れる(=清算の対象になる)「膨張主義」という形が取られていた時期もあります。
しかし法改正により、現在の破産法(2004年以降)では、新得財産は自由に持っていて良い形に改められました。
「自己破産したら一生貧乏」というイメージは、以前の古い破産法によって作られた印象かもしれませんね。
「自己破産の管財事件になった場合、どんな財産を持っておけるの?」
一見シンプルに思えるこの問題も、実際には人それぞれ。
法律や裁判所の基準だけでなく、一人一人の経済事情や家庭環境、債権者との調整など、しっかりと考えられて決定されていきます。
そのために、破産管財人の選出、管財人による調査や打ち合わせ、債権者集会…といった、管財事件ならではの複雑な流れもあります。
細かい点はさておいても、自己破産の管財事件は、
「○○円以上の財産はなんでも絶対に清算!売却!」
というような、機械的な条件だけで行われる手続きではありません。金額で決められた基準もあるにはありますが、“絶対に基準通りに運用されるわけではない”という面もあります。
だからこそ、表面的な知識だけでは、自己破産はできません。
債務整理や自己破産のことをよく知っている弁護士・司法書士に、力を借りる必要があります。
「自己破産をしたい」
「もう自己破産するしかない…」
「もしも自分が自己破産になったら、どうなるか知りたい」
…といった方は、何よりもまず、債務整理に詳しい弁護士や司法書士に相談してみましょう。
自己破産の管財事件の流れ
それでは次に、自己破産の管財事件の流れを見ていきましょう。
まずは、大まかな全体像を見ていきます。
《自己破産の管財事件の大まかな流れ》
1:弁護士・司法書士などに相談し、債務整理を依頼
↓↓
2:取り立て・返済のストップ
↓↓
3:自己破産の申し立て
↓↓
4:破産手続開始決定
↓↓
5:破産管財人選任
↓↓
6:債権者集会
↓↓
7:債権確定
↓↓
8:配当、破産手続終了
↓↓
9:免責手続
↓↓
10:免責許可決定
こうしてみると、かなり複雑な手続きですね。
ですが、弁護士や司法書士に依頼すれば、実際にはほとんどお任せでできます。
なので実際は、それほど心配する必要はありません。
それでは、上記の流れの中で、特に知っておきたいポイントを抑えて解説していきましょう。
破産手続開始決定
債務者の申立てを受け、裁判所が「破産手続きを開始する」と決定することです。
破産手続開始決定の前に、裁判所に書類を出したり、かんたんな質問(審尋)を受けたり…といった調査もあります。こうした調査を経て、破産手続開始決定が行われます。
ほとんどの場合、この時点で「同時廃止」になるか「管財事件」になるかが決まるようです。
ただし、破産手続開始決定の後になって「やはり財産がない」と判明し、後から破産廃止となる「異時廃止」という制度もあります。
破産管財人の選任
自己破産が管財事件になると、「破産管財人」という役割の人が選ばれます。(「破産管財人」という職業があるわけではありません。)
これは裁判所が指定するもので、弁護士などが選任される事が多いようです。といっても、破産管財人に選ばれる弁護士は、あなたが依頼した弁護士とは別の人物になります。
破産管財人は、公平中立な立場から、破産者の財産を管理する役割です。
債務者の財産を一時的に預かって管理したり、精算・配当にあたって債権者や裁判所に報告をしたり…といった業務を行います。
破産財団
「破産財団」という言葉についても、ここで解説しておきましょう。
破産財団とは、破産者の財産のうち、自己破産での清算(破産)の対象になる財産のことです。
【破産法 第2条14号】
この法律において「破産財団」とは,破産者の財産又は相続財産若しくは信託財産であって,破産手続において破産管財人にその管理及び処分をする権利が専属するものをいう。
破産“財団”というと、何かそういう団体や組織のように思えるかもしれません。ですが、ここでいう“財団”とは、“財産のまとまり”という意味になります。
現金、口座預金、有価証券、土地建物…etc、いろいろな形になっている財産を、ひとまとまりにして、財団と呼ぶわけです。
そして、この破産財団を管理するのが、破産管財人となります。
債権者集会と配当
債権者集会は、自己破産の手続きの中で、債権者に配当の説明などを行う段階になります。
おおざっぱに言ってしまえば、
「この人(債務者)は今、払える財産が全部でこれだけしかありません。なので、これを債権者の皆さんに配る(=配当する)ので、残りの返済はチャラにしてください」
…という説明をして、債権者から同意を得る段取りです。
債権者が貸金業者や保証会社などの企業の場合、よほどのことが無ければ、債権者集会で揉めることは無いようです。
ただし、債権者に個人が含まれていたり、担保権や抵当権がうまく処理されていなかったりすると、債権者集会で少しトラブルになってしまう場合もあるようです。
免責手続き
免責手続きは、「返済をすべて免除しましょう」という手続きです。これについては、基本的に裁判所が許可を出す形になります。
ひとまずは、免責=返済免除、と簡単に考えて良いでしょう。
「ギャンブルや浪費の借金だと免責されないのでは?」
という話も、聞いたことがある人もいるかと思います。
ですが実際には、こうした理由の借金でも、“裁量免責”によって、免責が認められるケースが多々あります。
自己破産の管財事件のまとめ
それでは最後に、自己破産の管財事件についてまとめていきます。
自己破産は、「破産」と「免責」が一体になった手続きです。
破産とは、「今ある財産を売ってお金に換えて、返済にまわす」こと。そして免責とは、「残った返済を免除する」ことだと考えて良いでしょう。
つまり、「今ある財産を売ってお金に換えて、返せるだけ返すので、残りの返済は免除してください」というのが、自己破産の管財事件になります。
なお、“自己破産の管財事件”という言い方をしていますが、実はこれが自己破産の基本です。どうしても財産の無い人のために、“同時廃止”などもありますが、基本はこの管財事件となります。
ただ、管財事件といっても、何もかもが破産財団に組み込まれ、清算されてしまうわけではありません。生活や仕事に必要な財産は、清算されずに手元に残すことができます。
ある程度の生活水準の低下は、覚悟が必要かもしれません。ですが、それもずっと続くわけではありません。
破産後に手にした財産(新得財産)は、自由に持っていて良いので、破産後はちゃんと人生をやり直すことができます。
自己破産、とりわけ管財事件は、債務整理のなかでも強力な効果がありますが、一方で「できれば避けたい」と考える人も多いと思います。
返済を減額・免除する方法は、自己破産だけではありません。任意整理、個人再生、特定調停など、他の手続きで解決できるケースもたくさんあります。
傷が浅いうちに早めに相談しておけば、破産に至らずに、もっと簡単な手続きで解決できる可能性が高くなります。
「自己破産は大変そうだ」
「できれば破産はしたくない」
という人ほど、早めに早めに弁護士や司法書士に相談しましょう。